誤解を生みやすい老人保健施設での医療ケア

老人保健施設での入所の際に、
「『認知症の薬は飲ませることができなくなります。』『かかりつけ医には通院できなくなります。』『健康保険は利用できません。』『自費で病院に行かれても困ります。』というような説明を受けたが、全く意味がわからない。どうすればいいのかもわからない。」
そんな相談を受けることがあります。

介護保険を利用する施設であっても、特別養護老人ホームや老人保健施設、療養病床、有料老人ホーム、軽費老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、施設にはそれぞれに特徴があり、メリットやデメリットが存在します。

例えば、老人保健施設と特別養護老人ホームの医療ケアを比較してみます。

老人保健施設:常勤の医師がいる
→入所中の基本的な医療は老健で担うことになっている(入所中の医療費も介護報酬に含まれている)
→外部の医療機関に受診した場合、定められた医療行為(例えば緊急度の高い手術など)以外は医療保険で請求できず、施設側の負担となる

特別養護老人ホーム:医師の配置義務はあるが非常勤でよい(嘱託医として入所者の健康管理を行う)
→日常療養上の医療は施設の医師が行う
→嘱託医の専門外科目への通院や入院加療が必要な場合の医療費は健康保険を利用できる

このように、同じ介護保険を利用する施設であっても、医療に関するスタンスは大きく異なります。施設を選ぶ際に、必要な医療ケアについて検討する必要があります。

「認知症の薬は飲ませることができなくなります。」
→薬についても、老健側の介護報酬で賄うことになります。このため施設は、薬の費用が高くつくと不利益を被ります。抗認知症薬等の中にはきわめて高額な内服薬がありますが、それらの薬を使いたくても使えないという事態が発生しても不思議ではありません。
高額の内服薬を継続的に服用する必要がある場合は、このようなデメリットがない他の施設を検討したほうが建設的でしょう。

「かかりつけ医には通院できなくなります。」
→入所中の基本的な医療は老健で担うことになっており、入所中の医療費も介護報酬に含まれています。入所者は入所前と同様に自由に通院することはできなくなることを理解したうえで手続きしなければなりません。

「健康保険は利用できません。」「自費で病院に行かれても困ります。」
→入所中の基本的な医療は老健で担うことになっています。たとえ、老健の医師が診ることができない場合に外部の医療機関を受診した場合でも、医療費は老健持ちになります。定められた専門的な医療行為(他科受診)に限っては、健康保険を利用することが認められていますが、それ以外は、老健入所者である証明を外部の医療機関に提出して、受診し、老健が費用を負担することになっています。
外出中に無断で受診したり、健康保険を使わずに自費で受診したりすることも慎まなければなりません。

老健での医療ケアについて、理解が得られにくい制度であることは確かですが、施設側が説明不足であることも否めません。お互いが制度や医療ケアについて話し合い、相互が納得したうえで、入所手続きを進めることが、トラブルを回避できることにつながると言えます。

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