私が行政職員をしていた頃、ある80代の女性が窓口に来られ、こうおっしゃいました。
「私と主人の年金は合わせて20万円余りです。ですが、主人の介護施設に20万円かかっています。私は貯金を取り崩して生活してきましたが、それも底をつきました。」
「今日は生活保護の相談に役所に来ましたが、持ち家を売らなければいけないとのことでした。
思い出の詰まった家を手放したくありません。私はどうすればいいですか?」と。
地域包括支援センター、生活保護課、市民相談課などを回りに回って、介護保険課に来られました。
私は、旦那様の障害者控除を申告すれば、税金が非課税になり、保険料や医療費、介護サービス費が下がると思い、確定申告を勧めました。ですが、身寄りもなく軽い認知症を患っている高齢女性が一人で書類を揃え、税務署で確定申告をするということは不可能でした。
私はここで、公務員としてやってはいけないことをやってしまいました。休暇を取り、上司にも内緒でその女性の手続きに同行したのです。
手続きは順調に終了し、旦那様の老人保健施設の費用は月10万円に軽減され、税金や保険料も遡って還付されました。
本来であれば、公務員は全体の奉仕者であり、一個人に肩入れすることはできません。全ての人に同じ対応ができないからです。私のしたことは越権行為です。でも、バレないだろうと思っていました。
ところが、バレました。その女性が市長にお礼の手紙を出してくださったのです。
私は上司に呼び出され、お叱りを受けました。ですが、その女性の手紙には「お陰で死なずにすみました」と書いてありました。
こんな高齢者が世の中にはたくさんいます。
私の祖母もそうでした。世帯分離1つで特別養護老人ホームの費用が月額10万円も軽減されました。
このように、確定申告や住民票の手続き1つで救える人たちがたくさんいますが、公務員時代は、公務員だからこそ手を差し伸べることに大きな障害がありました。
今は、税金や社会保険料、医療費、介護サービス費などの公的支出を横断的に診断し、適正化する「賢約サポート」を広める活動をしています。これは、公務員時代のキャリアがあったからこそ、作ることができました。